「好きなことを仕事に!」と言う方向性の提案が散見する中、『FIRE 最強の早期リタイア術』では0.1秒でも早く働かない人生を実現したいならコストを計算して進路を決めるよう提案しています。
お金第一で合理性にしか目を向けない人生なんて..などと思ってしまいますが、凡人が早期リタイアするにはそのくらいの客観性が必要で、好きなことは早期リタイアしてから存分に楽しめばいいというスタンスです。
現に著者のクリスティー・シェンは、作家になる夢を後回しにして、まずは当人とっては全く胸の踊らないコンピュータ・エンジニアになることをコストから割り出して選択し、リタイアしても残りの人生を暮らしていける資産が31才にして築けて、その後、リタイアして悠々とした人生を送りつつ、作家の夢も実現させているのです。
『FIRE 最強の早期リタイア術』の副題の「最速でお金から自由になれる究極メソッド」の通りの内容の要約をまとめています。
FIRE 最強の早期リタイア術の要約
『FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド』
クリスティー・シェン (著), ブライス・リャン (著), 岩本 正明 (翻訳)
クリスティー・シェンのWebサイト(英語)
Millennial Revolution – Stop Working. Start Living.
まずは情熱よりもコスト計算
クリスティーは大学の進路を選ぶ際、興味を持った3つの専攻のコストとその先に得られる収入の予想から、自分の選択肢のスコアを割り出しています。
専攻 | 学費などの総費用 | 給与の中央値と 最低賃金の差額 |
POTスコア (Pay-over-Tuition) |
ライティング | 13,520ドル | 2,752ドル | 0.20 |
会計 | 13,056ドル | 23,952ドル | 1.83 |
コンピュータ・エンジニアリング | 14,488ドル | 40,752ドル | 2.81 |
第一候補のライターとなった場合、収入は500ドルから5万ドル、スティーブン・キングレベルとなれれば数百万ドルまで多岐にわたり、平均では1万7千ドルで、調査当時の最低時給による年収と大差がなかったのです。
クリスティーは物語を書きたかったのですが、コンピュータ・エンジニアリングの学位を取りながらインターンシップで働ける大学を選び、卒業前に授業料を完済しながら履歴書に職務経歴まで載せられるという、プログラミングコードを書くルートを選びます。
でも、夢を諦めろと言っているわけではありません。
まず、人は変わるもので、ハーバード大学とバージニア大学による心理学の研究では、過去10年間に自分の情熱を注ぐものが大きく変わっているそうです。
確かに18歳の頃に好きだったものは、当時の知識の中から選んだもので、人生を重ねるうちに新しいものと出会い、情熱の方向も変わる事もあるでしょう。
18歳の時の情熱に従ってライターになって安めの給料で働く中、別の情熱を持てるものに出会ったりしたら、別のルートに移動するための軍資金に乏しい状況に陥ってしまいます。
また、医者や弁護士といった職業は高給取りのイメージがありますが、学位を得るためのコストと給与の中央値と最低賃金の差額から割り出すPOTスコアを参照してみると、驚きの数字なのです。
専攻 | POTスコア |
美術 | 0.83 |
ダンス | 0.51 |
役者 | 0.52 |
医学 | 0.78 |
法律 | 1.09 |
配管工 | 5.14 |
ダンスや役者、美術などのアーティスト系の職業は収入が低めですが、学費がかなりかかる医者や弁護士は、得られる給料は高くとも資格を取るためのコストが高いことから、意外なことにアーティスト系と同様のかなり低めのスコアなのです。
2年間コミュニティカレッジに通って準学士の学位を取ればなれる配管工は授業料が安い上、配管のない建物などないこの時代に仕事の需要が多く、驚きのスコアとなっています。
お金から自由になれるかどうかは、客観的なコスト計算にかかっています。
お金の管理・運営方法
まずは学生ローンや住宅ローン、消費者ローンなどの借金を返済してしまうこと。
そして、水道光熱費などの基本的な支出や、ご褒美や想定外の費用といった支出を見直し、自分の幸福感を阻害しないような節約方法を実践します。
その上で投資を行っていきますが、クリスティーは大学の専攻を選ぶ時と同様、コストから考えて、不動産投資ではなく、株式投資でもなく、インデックス投資を選んでいます。
彼女がインデックス投資を知ったのは、ベストセラーになった『父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え』だそうですが、インデックス投資の有利性に付いては、世界的なベストセラーの『ウォール街のランダム・ウォーカー』にも詳しく書かれています。
インデックス投資の利点は、投資資金がゼロにはならないこと、手数料が安いこと、大半のアクティブファンドのパフォーマンスを上回っていることなどがあります。
ただ、インデックス投資は、株式市場の暴落に耐えられるような組み合わせ(ポートフォリオ)をデザインする必要があり、株式と債権のファンドの比率や、国や地域の分散などから投資ファンドを選びます(この方法は「現代ポートフォリオ理論」と呼ばれています)。
さらに、時間と共に変動していくファンドの内容から、資産額が増加しているものを売却し、下落しているものを買い増して、リバランシングしていくことによって資産を増やしていきます。
クリスティーがインデックス投資を始めてからサブプライムローン危機やリーマンブラザースの破綻、世界金融危機が発生し、ポートフォリオ全体が下落してボロボロになり損切りして逃げたくなるところで、逆にインデックスファンドを買い増しして口数を増やし、ウォール街やS&P500よりも先んじて資金を完全に取り戻し、プロのヘッジファンドマネージャーの大半を打ち負かしたのでした。
自由こそが重要
クリスティーは、自分の情熱よりもコストで進路を選び、支出を見直し、稼いだお金を堅実に投資しながら様々な社会経験を積む中で、投資からの収入で生活費を充分に賄い、働く必要がなくなるにはどうなればいいのかを考え始めます。
リタイアに必要なのは高額な年収ではなく貯蓄率で、1年間の生活費がポートフォリオの4パーセント以内で賄えれば貯蓄が持続する可能性が高いことを知り、リタイアへの具体的なゴールが見えてきました。
クリスティーの場合のゴールは資産が1億円になることでしたが、その額が溜まったとしても貯蓄の持続は理論上の机上の計算で、資産を現金化するときにもし株価が急落しているタイミングだと貯蓄が減ってしまう可能性もあり、必ずしも成功が約束されたわけではありません。
そこで、株式の暴落に耐えられるだけの現金を用意しておいたり、優先株やREIT、社債、高配当株などの高利回りのETFをポートフォリオに組み込んで利回りを利用したりして、下落相場時期に資産を売却せずに済むようにしています。
こうして目標額をクリアしたクリスティーは、退職した後、お金を浮かすために、住まいを引き払って数年に渡って旅行をし続けています。
旅行をするなんていうとお金がかかりそうな気がしますが、滞在先に東南アジアやAirbnbを組み込むことで、定住して家賃や水道光熱費を支払っているよりもトータルの生活費を安くあげられているのです。
こうしてクリスティーはFIRE(Financial Independence, Retire Early)を実現させました。
FIREのデメリット
クリスティーは最速でお金から自由になれる究極のメソッドを見出しましたが、彼女曰く、早期リタイアにはデメリットもあります。
人と違うことをすることで、「恐怖心の壁」と呼ばれる、ワクワクする気持ちよりもうまく行かないかもしれないという恐怖心に飲み込まれてしまうのです。
でも、リタイアした後に、想定外の高額医療費や子育て費用、急激なインフレなどでお金が底を付いてしまうかもしれないという恐怖心は、利回りや現金をしっかり計算して備えておくことで回避できます。
また、会社で働いたり定住して友人や家族と関わりながら過ごすことをやめて旅行し続ける暮らしをすることでコミュニティを喪失してしまうかもしれないという恐怖は、リタイアして自由に暮らすという新しいアイデンティティになることで、それに見合った新しいコミュニティが形成されていきます。
そうしていよいよ
お金の自由を得られ、リタイアできたクリスティーは、ついに自分の情熱に従い、本を出版するという夢に向かいます。
しかし、エージェントや出版社から何度も断られ、スキルを磨くのに何度も失敗を重ねることになり、その間はライターとしては1セントも稼げません。
ようやく出版の夢が実現するも、それで得られた印税はたったの数千ドルだったそうです。
でも彼女は、エンジニアとして働いて経済的にリタイアできるほど稼いだ大金よりも、本を書いて稼いだわずかな額の方により大きな誇りを感じたそうです。
もし彼女が最初から出版を目指すルートを選んでいたらとても生活が成り立つ状況や金額ではないですが、経済的に自立していることで、夢が実現する過程や結果を楽しめたのです。
FIRE 最強の早期リタイア術の書評
クリスティーは中国出身で、カナダで暮らしながらFIREを実現させました。
「FIRE 最強の早期リタイア術」にはカナダを基準にした方法が紹介されていて、日本ではそのままでは当てはまりませんが、合理的な考え方は国を超えて参考にできます。
まずはお金のために好きでもないことでも頑張らなければならないなんて辛い気もしないでもないですが、経済的な自立ができていれば、好きなことを失敗や収入の多寡や情熱の偏移を気にせずに楽しめるというのには納得がいきます。
どれだけの資産があれば安心できるのか、クリスティーの考え方を元に自分で算出し、ポートフォリオが組めればリタイアできます。
受け取れる年金額は不安でいつまでも働き続けないと生活ができないかもしれず、年金を受け取る年齢どころか早期にリタイアするなんて宝くじでも当たらない限りは無理で、ひょっとしたら私にはリタイアなんて一生叶うことがない夢なのかもしれないと思っていましたが、クリスティーのような考え方をすれば、全く不可能なことでもないと思えるようになりました。
それにはまずは、資産を築かなければなりませんが、私の場合、人生も後半に差し掛かり、今さら稼げる職業に就くルートは選べません。
でも、稼ぎに特化して合理的に考える必要があることがわかっただけでも「FIRE 最強の早期リタイア術」から学べてよかったと思います。
さて、お金を稼げる方法を調べるとしますか。